** 白<青<赤 **


 俺は今、ものすごくたくさんの荷物を抱えている。決して重くは無いがかさばる。正面から見たら人ではなく、荷物が動いているように見えるんだろう。たぶん。
「あら、……神さま? おはようございます」
「おう! おはようさん!」
 廊下をわさわさ音をたてながら歩いていたら声をかけられた。俺の部下の一人だろう。声からするに女性の。
 というか、何で疑問系なんだ。そんなに今の俺は人には見えないのか。
「すごい荷物ですね……。どうされたんですか?」
「今日は、ホワイトデーだろ? だからな」
「そういえば……」
 そう、今日はホワイトデー。バレンタインのお返しをする日。チョコレートを貰ったからにはお返ししないとな。
「バレンタインはありがとな。一本、取ってくれるか?」
「白と青がありますが、どちらを?」
 そういえば、そうだった。悪いが、青の方をあげるわけにはいかない。青はあいつ専用だ。
「悪いが、白だ。青はあいつのだからな」
「ふふ、そうなんですね。では、白の方を。ありがとうございます、神さま。大切にいたしますね」
 どうやら笑われたようだが、悪い気分はしない。愛情のこもった声だからだろうか。ほほえましい、かわいらしい、そういった声。
 だってしかたがない。青はあいつ専用。ちょっとした特別扱いだ。
 それでは、と挨拶をして部下は去っていった。
 また後でなー、そう返して俺はまた廊下を歩く。目的地を目指して。


「やっと、着いた……」
 はぁ、とためいきをひとつ。目の前にはチョコレート色の扉。ここまでの道のりは長かった。距離的にはたいしたことない。普段なら五分とかからず、たどり着く。 だけど、今日はホワイトデー。ここまでの道のりに出会った部下、ひとりひとりにお礼を言ってプレゼントを渡してきた。
「……もう白いのは残ってないな……?」
 ここまで運んできた、今俺が抱え込んでいる荷物をちらりと見て確認する。どうやら白いのは残ってないようだ。全部渡し終わったらしい。 これで心置きなく作業に専念できる。
「よし! やるか!」
 そう意気込んで、扉を開ける。
「やっぱり、片付いてるな〜。感心、感心」
 ぐるり、と部屋を見渡してそうつぶやく。きちんと片付けられた、清潔な部屋。何を隠そう、ここは俺の愛しの少女の部屋である。片付いてないはずがない!
「まずは……、と」
 抱えてきた荷物をばさっと部屋に放り投げる。上から下に落ちていく青。大量にあるものだから、なかなか圧巻である。
 ほんのりと香る甘いかおり。ひらひらと落ちていく青。……きれいだ。
「青いバラにして正解だな」
 そう、俺がここまで運んできたのは青いバラである。奇跡と呼ばれる青いバラ。俺にかかれば青いバラを作るのは難しくない。なんたって神さまだからな。
 そのバラを部屋に敷き詰める。部屋はほとんど青一色だ。
「こんなところだな。あとは……、最後の仕上げっと」
 大事に、大事に持ってきた赤いバラを取り出す。少女の髪色のリボンをした赤いバラ。
 それを目立つようにと、魔法で扉の前に浮かす。くるくる回りながら浮く赤いバラ。まるで踊っているようである。リボンはドレスだ。
「さ、行くか」
 そっと部屋を出て扉を閉める。
 後は少女が来るだけ。
 青の中で踊る赤。少女は気に入ってくれるだろうか。


 色に込めた思いをどうか受け取って。


尊敬<神の祝福<君を愛している


writer : 藤


...happy whiteday and thanks a lot